shin’s notebook

ふらふらと適当に

Salmon&Trout 2月猪鍋コースの訪問

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三軒茶屋と下北沢を結ぶ茶沢通りの中間あたりの代沢にお店を構えられているレストランSalmon&Troutさんへ先週末お伺いしました。

お伺いするのはこれでもう5度目なのですが、最後が昨年の2月で丁度1年ぶりでした。

今回はメインが猪鍋で、その昨年2月の際も猪鍋でそれが大層美味しかったので今回お伺いした次第です。

 

まず、軽くどんなレストランなのか説明しておきます。

HP : http://salmonandtrout.tokyo/

ジャンルとしてはイノベーティブフュージョンに属するものなのかなと思っています。

ただ、複雑な料理技法を用いるのではなく、煮る,焼く,和える,揚げるといったシンプルな技法を用い、ジャンルに捉われない食材や香りの重ね合わせをされることで中村拓登シェフの世界がお皿に表現されていると感じます。

そうしたお皿を月替わりのコースにアルコール/ノンアルコールペアリングがなされる形で提供されています。

ペアリングをなされるのはオーナーでありカヴィストである柿崎至恩さんなのですが、そのペアリングに使用されるお酒の奥深さと料理とのペアリングの妙が素晴らしいです。

(私は頼んだことないですがノンアルコールペアリングの場合はティーペアリングのようです)

 

さて、いただいたお皿とお酒についてです。

構成としては最初に4皿、その後猪鍋と鍋の〆、最後に甘味1皿でした。

ペアリングについてはアルコールペアリングでお願いしました。

1皿目 牛蒡 白金時豆 長芋 蕗の薹 ベスン粉 / Erioli Malvezza 2018

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牛蒡の鮮度の高い土っぽさを思わせるくすみ感があるコクを、豆の円やかさで伸ばしたペーストは淡いながらも褪せない味わいで口に運ぶと整うようでほっこりします。

蕗の薹のほろ苦さ、鼻に抜けるほのかに刺激的な香気成分...春を感じるこの味わいには心躍るものがあります。

(昨年も蕗の薹出てき、その際はお店のすぐ近くで採れたものだったそうなんですが今年のはどうだったんでしょうねw)

そんな蕗の薹の風味も天ぷらとなることで淡さが生まれ、ペーストと合わせた時には優しい土っぽさに淡い青さが描かれ、寒さを感じながらも春が見えてきどこか高揚してくる世界のようなものを感じました。

そんな、淡い一皿に合わされた白ワインのErioli Malvezzaは土着品種で醸造されたボローニャのものだそう。

強く太い酸味とタンニンは淡さに″刺してくる″ような印象でした。

淡さが間伸びしすぎずリズミカルさが付与されるようで良かったです。

2皿目 国産ジャスミンライス 干柿 ターメリック 八朔 鯉 キャベツ 梅干し / Brekeriet Low & Slow

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このお皿はマジでヤバかったです。

一口一口を運び食べるのが楽しくて仕方のない一皿でした。

ジャスミンライス(国産のものがあるの衝撃でした)の芳香、茹でた鯉の泥っぽさに脂の甘さと深み(冬が鯉の旬だそうで、寒鯉は季語でもあるそう)、八朔の瑞々しい酸味、この時期のキャベツの甘さと土っぽさ、干柿のねっとりとした甘さ、ターメリックの華やかさ

食べ合わせにより切り取られる味の側面が変わり、万華鏡のように様々な味わいの世界を見せてくれる...そして時折奇跡なのか作為なのか恐ろしいほどに美味しい組み合わせが現れるのです。

総じてはアーシーさと優しい甘さが春を感じさせるも、華やかさも時折ありで1皿目よりもより春が近づき陽の光も春のものになったのを感じさせられるものでした。

合わされたBrekeriet Low & Slowはビールでしたが、これが自然酵母のみを使った醸造に加え1.6%の超低アルコールというあまりに深いものでした。

自然酵母のみ故かくすんだ花のような香りにグレープフルーツも思わせ個人的にはオレンジワインに似た質感と風味を感じました。

にしても、アルコールの重さのないビールのあらわになったホップとモルトの風味と味わいは衝撃でした。上記のグレープフルーツはあらわになったシトラホップの香りですかね。

3皿目 リーキ ティムット山椒 太白胡麻油 / ナチュラル・ココレラ・カント2019

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ティムット山椒なるものが所謂山椒らしい痺れる刺激が僅かしかなく、代わりにフローラルな香りが口一杯に広がるという大変不思議で面白いものでした。
リーキのトロッとした甘さと繊維を噛んでほぐす間に広がるティムット山椒の香りが織り混ざり良かったですが、これはペアリングのワインと合わせた時にこのコースにおける在り方が完成するものがあるような印象も受けました。
そんなワインはナチュラル・ココレラ・カントで北海道のものでした。

甲州,マスカット・ベリーAに次いで3番目に国際品種に登録された山幸を使用したものだそう。そんな山幸は北海道で開発された品種だそうですね。

この味わいがかなりワイルドでスパイシー、でも決して荒削りではなくオリエンタルな雰囲気すらも感じさせるというものでティムット山椒の香りが口に広がって飲むと素晴らしく美味しかったです。

ここまで春を感じさせるお皿が来ていた中でのこのオリエンタルで刺激的な味わいはフックのように効いていました。

4皿目 鯉卵 春野菜 ミント ポン酢 リンゴ / Pivnica Cajkov  Vulcanica #5

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こちらも2皿目と同じようにアーシーさ+何かで春を表現されているように感じました。

その何かがこのお皿の場合はミント、ポン酢、リンゴの爽やかさのように思います。

ポン酢が喜界島の花良治ミカンから作られたものだそうで、爽やかさのレベリングが他と取られていたのも爽やかさがキーとして感じやすく一体感があり美味しかったです。

アーシーさを感じたのは鯉卵で、これが塩漬けにして日本酒につけたものを半乾燥させたものでした。鯉の身と変わらない淡水魚らしい土っぽさしっかりとありました。半乾燥のねっとりとしたテクスチャがあるのも土っぽさを高めていたように思います。

(この鯉卵、2皿目の鯉の卵だそうで食の追求とサステナビリティの両立に感動させられました)

合わせられたワインの方なんですけど、飲んで一週間経った故か記憶があまりなく...申し訳ないです。

なんとなぁく柑橘系の風味があったことは覚えているんですが。

メイン 猪&熊鍋(猪 ヒグマ 下山千歳白菜 猪肉漬け 四物湯)/ Phezant′s Tears Poliphonia 2020 / Johannesburg Zillinger Numen

〆 ビーフン / Ganstaller Brau Helles Lager

お鍋の前半と後半、〆でペアリングが変わる形でした。

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お出汁が鰹なのは昨年と変わらず、昨年はみぞれ鍋だったのが今年は違いました。

昨年よりも鰹の風味が抑え気味かつ、四物湯の香りも抑え気味で風味の複雑性を排しシンプルにすることで素材の味の深さに目を向けるというようなものに感じました。

猪肉は全くの臭みがなく、甘く濃い脂みは豚肉よりも濃く美味しかったです。

熊肉はシェフの奥様が北海道で獲られたものだというからダイナミックなレストランだなと衝撃ですw

そんな熊肉は人生で初めて食べるはずなんですが、鹿肉のような味わいでした。

これはこのヒグマを獲らえるのに罠を使用したそうなんですが、その餌に鹿肉を使ったそうでその影響が大きいのかもしれないとシェフ談でした。

下山千歳白菜はお店近くの地場野菜だそうで、漬けて発酵させたものでこれは昨年と同じでした。この白菜そのものの旨味や土っぽさが美味しくて、これが強く感じられたのは昨年との違いだと思います。

昨年より素材一つ一つに目が向くようになったことから鍋としての纏め込みは浅くなっているように感じたのですが、そのおかげでワインと合わさった時に完成するというか味が纏め込まれる印象が強く結果的にお酒と合わせてめちゃくちゃ美味しかったです。

そんなワインのうち鍋の前半で合わせたPhezant′s Tears Poliphoniaは184種類?だったかなという途方もない種類のブドウを使って醸造されたものだそうで。

まぁ味わいは超ギスギスしてるし、渋みや酸味は幾重にも重なった恐ろしいほどの深みを見せるしであまりに複雑な味わいでしたw

単体で飲むにはしんどかったのですが、これが動物性の旨味がまだ出ていない鍋の前半に合わせると鍋の奥行きの浅さに深みが嵌まり込み、一気に複雑だけど纏まった味になって衝撃でした。このペアリングできるのほんと凄すぎです。

後半合わせたのはJohannesburg Zillinger Numenで超綺麗で美味しいリースリングでした。

白桃, シナモンシュガー, グリスを思わせるペトロールの香りと綺麗なところにうまぁくマシナリーな味わいの入った最高に私好みのものでした。今まで飲んだリースリングで一番好みでしたね。

動物性の旨味や脂が溶け込んだ後半の鍋とは、白桃の風味がすっきりとさせながらもエーテルの香りが脂の香りと相乗的に効いて多層的になったところにシナモンのパンチとこのペアリングもまた凄すぎでした。

にしても、たまにワインで見られる機械油やグリスのようなこのマシナリーでオイリーな香りて何由来なんでしょうね?

蒸留酒だとフーゼル油なのかなと思うのですが、ワインでそんなことはないでしょうし好きな味わいだけに気になりますね〜

 

〆のビーフンはまぁ白菜に猪、熊の旨味が溶け込んだ鰹出汁でいただくのですから美味しいに決まってます。ビーフンというお汁との絡みがいいものなのがまた、仕上がったお汁の旨味を堪能できて良かったです。

そんな〆に合わされたのがHelles Lagerなるラガービールでこれが超絶美味しい...

あまりのバランスの良い美味しさの只々美味しいしか感じませんでしたw

甘味 麩 豆腐 花良治みかん レタス アブサン / 茉莉銀針 水出し

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この甘味も半端なく美味しかったです。

白色の豆腐のペーストにアブサンを加えているそうなんですが、これがいい感じにアブサンのドギツイ強さを丸くしてくれていました。

ニガヨモギの独特の刺激的な風味と青さが緑色のレタスのペーストの青さと合わさった時の風味の多層性と揺らぎが凄まじく美味しかったです。

喜界島の黒糖を染み込ませたという麩にそれらを合わせていただくと、甘さという味の基底のようなものが生まれまた一層の深みが出てき、味と風味の変遷が口内で生まれ心躍る美味しさでした。

ここまで風味の良い甘味に白茶で作られたという茉莉はさらなる風味の変化を与えてくれるもので美味しかったです。

特に白茶ベースということもあってか、藁のような草っぽさが感じられるのが相性良かったと感じます。

 

久しぶりのSalmon&Troutでしたが、こんなに一皿一皿を通して世界観、それも決して他のレストランやシェフでは醸成できないものを魅せてもらえるのは本当に楽しくワクワクする体験です。

特に今回は季節の変わり目ということでそうした四季を感じさせてくれお皿が多く、こうして四季が表現される料理というのはほんとに良いものだなと思わされた次第です。

素晴らしい体験に美味しい時間をありがとうございました。

 

なんだか、前回から一年も空けてしまったことが悔やまれたので今年はまた季節を変えてお伺いしなければなと思っていますw

 

PS.あまりに美味しかったラガービール美味しすぎてどこで買えるのか柿崎さんに教えていただき買いに行きましたw(追加で買いに行くが私の分は残しておいていただけると言っていただいた通り残っていて多謝です)

また、飲んだ時に気が向けばレビューしようと思います。

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